Saturday, October 01, 2005

本:更年期 日本女性が語るローカル・バイオロジー


読みたい本です。

日本女性が語るローカル・バイオロジー 

みすず書房

マーガレット・ロック
江口重幸・山村宜子・北中淳子共訳
A5判・492頁
定価5880円(本体5600円)
ISBN4-622-07161-4 C0047
2005.09.16
ENCOUNTERS WITH AGING:
Mythologies of Menopause in Japan and North America
by Margaret Lock



みすず書房サイトより
近年、更年期を、閉経以降の女性ホルモン“欠乏”と関連づけられている西洋医学的概念「メノポーズ」と基本的に同一視し、医療化する趨勢が強まっている。著者は、医療化が始まる直前の80年代に、当時更年期に該当していた日本女性を対象として医療人類学的調査をおこなった。そこでは意外にも、北米で言うメノポーズと日本の更年期との間に、身体症状の明白な違いがあることが示された。著者は〈語り〉の分析をとおして、「メノポーズ=更年期」という図式や、「暇人の病」など、更年期に絡みつく神話をねばり強く解体してゆく。

本書がとりあげている“昭和一桁”世代の女性の語りから浮かび上がるのは、混乱期に生まれ、世界観の激変の中をひたむきに生きてきた女性たちの個人史、そしてあくまでその個人史と結びついた「更年期」の自覚症状の出現である。著者は「異常とされるのは更年期自体ではない。……更年期は圧倒的に社会的なカテゴリーなのである」と指摘する。

更年期というカテゴリーの独自性を十二分に示したのち、後半で著者は、「もし更年期を日本の歴史と文化の産物と見るのなら、なぜメノポーズを西欧文化の産物と考えてはいけないのだろうか?」と問いを逆転させる。そして西洋の医学史・文化史をたどる周到な議論によって、「メノポーズ」という概念から“生物学的普遍性”の御墨付きを引き剥がすのである。これを受けて最終章は、メノポーズに対するホルモン療法のリスク‐ベネフィットを再考し、治療方針に関する具体的な提言をおこなっている。この事例はまた、ローカル・バイオロジーの視点からの西洋医学的治療のリスク‐ベネフィットの再検討という、普遍的な課題の存在を示唆している。

M.ロック(Margaret Lock)
英国ケント州生まれ。カナダ在住。マッギル大学医療社会学部・文化人類学部教授。カナダ・ロイヤル・ソサエティ会員。日本と北米をおもなフィールドとして、きわめて質の高い医療人類学的研究を長年精力的に続けている。その功績により2005年、カナダ最高の学術賞であるキラム賞を受賞。本書によってもステイリー賞(J. I. Staley Prize)など複数の賞を受けている。その他の単著に、East Asian Medicine in Urban Japan: Varieties of Medical Experience(University of California Press, 1980)〔中川米造訳『都市計画と東洋医学』思文閣出版、1990〕、Twice Dead: Organ Transplants and the Reinvention of Death(University of California Press, 2001)〔坂川雅子訳『脳死と臓器移植の医療人類学』みすず書房、2004)〕があるほか、アラン・ヤングらとの共編であるLiving and Working with the New Medical Technologies : Intersections of Inquiry (Cambridge University Press, 2000)をはじめ多数の編著書がある。

江口重幸(えぐち・しげゆき)
1951 年生まれ。1977年、東京大学医学部医学科卒業、現在は東京武蔵野病院(教育研究部長)。精神科医。文化精神医学、医療人類学、力動精神医学史に関心をもつ。著書に、『文化精神医学序説』(酒井明夫ほかとの共著、金剛出版、2001)、訳書に、アーサー・クラインマン『病いの語り』(誠信書房、 1996)、バイロン・グッド『医療・合理性・経験』(誠信書房、2001)(いずれも共訳)などがある。

山村宜子(やまむら・よしこ)
翻訳家。1946年生まれ。国際基督教大学卒。訳書にマーティン・セリグマン『オプティミストはなぜ成功するか』(講談社、1991)、アーサー・アッシュ『静かな闘い』(日本放送出版協会、1993)、キャサリン・モーリス『わが子よ、声を聞かせて』(日本放送出版協会、1994)、アーサー・カリンドロ『あなたの人生を変えるシンプルな10のステップ』(ダイヤモンド社、2000)、セーラ・バークリー『ジェイミー』(清流出版、1998)、ボニー・アンジェロ『ファーストマザーズ』(清流出版、2004)、ほか多数。

北中淳子(きたなか・じゅんこ)
1970 年生まれ。シカゴ大学修士、マッギル大学博士課程在籍、慶應義塾大学文学部助手。専門は医療人類学。論文に、「鬱の病」(栗山茂久・北澤一利編著『近代日本と身体感覚』所収、青弓社、2004)、「『神経衰弱』盛衰史:『過労の病』はいかに『人格の病』へとスティグマ化されたか」(『ユリイカ』第36巻第 5号、2004)、など。

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